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宝石の知識3 宝石の人工処理

宝石の人工処理について

 
宝石業界におけるエンハンスメント、およびトリートメントと呼ばれる
 
宝石に対して施される人工処理技術についてご説明致します。
 

宝石に施される人工処理の種類

 
日本のJJA(社団法人 日本ジュエリー協会)とAGL(宝石鑑別団体協議会)に
 
加盟している鑑定機関においては、カット・研磨だけが施された自然に近い天然石のほか、
 
何らかの人工処理が施された天然石も宝石として扱われます。
 
宝石に対して施される人工処理については以下でご説明致しますが、
 
かつてはエンハンスメント、及びトリートメントという用語で分類されていたため、
 
これらの用語をあえて使ってご説明してみたいと思います。
 
現在はこうした区分はなく、自然界ではありえない変化を宝石に及ぼす
 
人工処理方法を一律、トリートメントという用語で表現されます。
 

エンハンスメント処理

 
「エンハンスメント」処理は、その宝石が本来持つ美しさを引き出すための
 
必要最小限の処理の範囲として定義されています。
 
具体的には、日本国内において、エンハンスメント処理が
 
行われた宝石は「天然石」として扱われ、宝石としての価値を失う事はありません。
 
代表的なエンハンスメント処理としては、ルビーやサファイアの
 
美しい色を引き出すための加熱処理などがあります。
 

エンハンスメントの一般的な処理一覧

 

加熱処理(通常)

 
ルビーやサファイアなどの多くの色石に施されている処理方法です。
 
加熱する事によって黒みや青みを取り除き、ルビーはより赤く、
 
サファイアはより青くする事ができます。 
 
コランダムの原石に含まれる色の元となる成分は針状の結晶になっている事が多く、
 
1600~1900度以上の高温炉で熱する事で、成分を溶かし石の内部全体に広げる事で、
 
美しく発色し輝きを増す効果が期待できます。
 
しかし温度の調整や高温度の技術向上の歴史は、ここ約25年ほどです。
 
1970年代のタイ産のルビーが広まったのは、国産ルビーが赤黒い物が多く、
 
それをどうにかして綺麗にしようとした加熱技術の成果です。
 
また、スリランカでは未だに原始的な炉で1000度強で加熱をしています。
 
それは彼らが、1300度以上で熱してしまうと針状ルチルが壊れ、
 
スリランカ産で有名なスター効果のあるコランダムが
 
意味をなくす事を知っているからです。
 
こう言った加熱技術の向上が、市場への供給を広めたということです。
 

含浸処理(ワックス)

 
美しく見える翡翠やターコイズ、ラピスラズリや珊瑚などの
 
多孔質宝石の表面は、見た目ほどなめらかではありません。
 
そこでざらつきを無くし、光沢を良くする為のワックスによる含浸処理を行う事が、
 
特に翡翠では広く行われています。
 

含浸処理(オイル)

 
特にエメラルドによく見られるオイルや樹脂を使った含浸処理です。
 
石内部にインクルージョンと呼ばれる内包物の量が多いため、
 
採掘された段階ですでに亀裂が多いうえに、そのあとのカットや研磨と
 
プロセスが進むにつれて、これらの亀裂が拡大してきます。
 
そのため、オイル(主にシダーウッドオイル)を割れにくくするためなど
 
エメラルドの亀裂にしみこませる含浸処理が、昔から半ば慣習的に行われてきました。
 

トリートメント処理

 
トリートメント(treatment)とは、
 
化学的な操作で自然界ではありえない変化を宝石に及ぼす人工処理方法を指します。
 
国内においては「トリートメント処理石」もしくは「処理石」と呼ばれます。
 
海外では、宝石に関する「情報開示」として、
 
鑑別書には処理方法についての詳細が記載されている事が普通でした。
 
日本国内においても、「AGL(宝石鑑別団体協議会)」により、
 
「宝石もしくは装飾用に供される物質の定義および命名法に関する規定」が
 
広く認識されるようになり、信用度の高い鑑別機関からの鑑定書や鑑別書には、
 
研磨やカット以外の人口的な処理についても具体的に記載するようになりました。
 
しかし、宝石の情報開示については法的な拘束力がないので、
 
すべての宝石に信頼できる鑑別機関の鑑別書や鑑定書が付属するわけではありません。
 

トリートメントの一般的な処理一覧

 

加熱処理(外部拡散)

 
微量の鉱物を加熱により表面に拡散、浸透させて色を改変させる処理です。
 
表面は綺麗なのに、裏から見ると薄いなどは殆どがこの処理の特徴となります。
 
人工着色であり、価値は皆無となります。
 
ベリリウムを処理段階で入れ桃色やオレンジに改変させるのが国内では一般的ですが、
 
2002年の東京国際宝飾展で、2001年より国内に大量に持ち込まれた
 
パパラチアサファイアの記憶がおありと思います。
 
当時では、現在カラーコランダム鑑別に義務付けられている、
 
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析による
 
分析を行っていない為、「エンハンスメントが為されています」
 
としか記載されておらず、この期間の分析報告書が無いコランダムに関しては、
 
価値が無いに等しいです。
 
同年4月に、該当しそうな宝石鑑別依頼に対し、JJA(日本ジュエリー協会)が
 
異例の発行中止措置をAGL(宝石鑑別団体協議会)に講じたのは余り知られていません。
 

含浸処理(樹脂)

 
本来の価値以上に見せてしまうエポキシ樹脂を使用した
 
エンハンスメントの範囲を超えた含浸処理が1980年代辺りから登場してきました。
 
特にエメラルドの含浸処理で広く使われているエポキシ樹脂「オプティコン」が
 
処理剤として有名です。価値は無いに等しいです。
 
また、翡翠の樹脂含浸処理も多く、1980年代以降に赤外分光分析で
 
鑑別できるようになった為、これ以前の翡翠の鑑別書は含侵確率が高いです。
 

ガラス充填処理

 
ダイヤモンドやエメラルド、ルビーやサファイアなど、
 
あらゆる宝石に使用されているトリートメント処理です。
 
石の内部にできた隙間やキズを目立たなくするために、
 
鉛ガラスで充填する事があります。
 
本来であれば、そのような部分を避けてカットするのですが、
 
宝石のサイズ減少を避けるために、このような処理を行っています。
 
石が破損しやすくなるうえに、この処理を行うとブルーフラッシュ効果が
 
現れる為、容易に見分ける事ができます。評価が低くなる加工処理方法です。
 

レーザードリル処理

 
ダイヤモンドにのみ行われるのが「レーザードリル処理」
 
「レーザードリリング処理」、LDHです。
 
ダイヤモンドの中のインクリュージョンの、黒色カーボンに向かって
 
レーザーで穴を開けて、中に王水(塩酸と硝酸の化合溶液)を
 
染み込ませてカーボンを白く漂白する方法です。
 

放射線処理(エレクトロン)

 
無色、もしくは発色の悪い宝石に放射線を照射する事によって、
 
本来の石にはなかった美しい色にする事ができます。
 
特にトパーズや、安価なファンシーカラーダイヤモンドに見られます。
 
安価なブルーダイヤ等はこの処理がほとんどです。
 

コーティング処理

 
着色剤を宝石の表面、あるいは裏面のみに施す処理です。
 
最近のピンクダイヤモンドなどに多く用いられます。
 

染色処理

 
サンゴ、トルコ石、ラピスラズリといった、多孔質の宝石に
 
染料を宝石に注入して色を変える処理です。
 

まとめ

 
その宝石の本来持つ魅力を最大限に引き出すためのエンハンスメント処理と、
 
元の宝石とは全く別物に変えてしまうトリートメント処理の
 
違いがお分かりいただけたかと思います。
 
次回は、「宝石の特殊効果」についてご説明いたします。